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取引先企業から譲渡制限株式を持たされている場合の売却

執筆・運営:少数株ドットコム株式会社

カテゴリ

少数株主の権利

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約9分
構成
6セクション

取引を始めるときに「うちの株を少し持ってほしい」と言われて引き受けた。協力会社として設立時に出資した。前任者の代に何らかの経緯で取得していて、いまとなっては理由が分からない。取引先企業の非上場株式を保有している法人や事業主からのご相談は、だいたいこのいずれかから始まります。

上場企業でいう政策保有株式に近い立場ですが、非上場株式の場合はさらに厄介です。市場がないため売りたいときに売れず、配当も出ないことが多く、それでいて決算書には投資有価証券として金額が載り続けます。取引が縮小したり終了したりしても、株式だけが残る。この状態をどう整理するかが本記事のテーマです。

なぜ取引先の株式を持つことになったのか

保有の経緯は、その後の整理の進めやすさに直結します。まずは事実関係を確認しておくところから始めます。

よくあるのは、取引の開始や継続の条件として引受けを求められたケース、系列・協力会社として資本関係をつくったケース、業界団体や共同事業のために出資したケース、金融機関や本部企業との関係で保有することになったケースです。いずれも、投資として利回りを期待して取得したわけではない、という点が共通しています。

ここで一点、触れておくべき論点があります。取引上の優越的な地位を利用して、取引の相手方に自己の指定する商品や役務を購入させることや、経済上の利益を提供させることは、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となり得るとされています(独占禁止法2条9項5号)。公正取引委員会の「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」でも、購入・利用の強制や経済上の利益の提供要請が行為類型として整理されています。

ただし、取引先の株式を引き受けたという事実だけで直ちに違反になるわけではありません。優越的地位があったといえるか、相手方が自由な判断で引き受けたといえるかなど、個別の事情によって評価が変わります。過去の経緯を持ち出して争うというより、「本来、取引条件と資本関係は別のものである」という整理の出発点として押さえておくのが実務的です。

持ち続けるコストは見えにくいが確実にある

「損はしていないのだから、そのままでもよいのでは」と考えられがちですが、保有には見えにくいコストが伴います。

議決権も配当も期待どおりには機能しない

数パーセントの持分では、株主総会で議案の可否を左右することはできません。加えて、持ち合いの関係にある場合には議決権そのものが制限されることがあります。会社法308条1項は、株式会社がその株主である会社の議決権の4分の1以上を有するなど、経営を実質的に支配することが可能な関係にある株主は議決権を有しない旨を定めています(具体的な範囲は会社法施行規則67条)。取引先の側が自社の議決権の4分の1以上を握っている相互保有の関係であれば、自社は取引先の株主総会で議決権を行使できないことになります。

配当も、非上場の中小企業では無配または名目的な金額にとどまることが少なくありません。議決権も配当も実質的に機能していないのであれば、その株式は資産というより、動かせないまま置かれている残高に近い性質を持ちます。

会計上も税務上も、簡単には落とせない

市場価格のない株式は、原則として取得原価をもって貸借対照表に計上され続けます。発行会社の財政状態が著しく悪化して実質価額が大きく低下した場合には相当の減額が必要になりますが、逆にいえば、そこまでの事情がなければ帳簿上の金額は動きません。

税務ではさらに要件が厳しくなります。法人税法は資産の評価損の損金算入を原則として認めず、政令で定める一定の事実が生じた場合に限って例外を認めています(法人税法33条)。株式については、発行法人の資産状態が著しく悪化してその価額が著しく低下したことなどが必要とされ、業績が振るわない、配当が出ないという程度では評価損を計上できません。なお、この判定に用いる株式の価額については法人税基本通達9-1-13・9-1-14が算定方法を定めており、一定の条件のもとで、財産評価基本通達の取引相場のない株式の評価に準じた算定も認められています。

自社の承継・売却のときに表面化する

問題が顕在化しやすいのは、自社の事業承継やM&Aの局面です。買い手のデューデリジェンスでは、換金の見通しが立たない資産として厳しく見られます。また、自社株を相続税評価する際に純資産価額方式が用いられる場合、保有している取引先株式も評価の対象に含まれます。換金できないのに評価額だけが乗り、自社株の評価を押し上げるという結果になり得ます。

売却先として考えられるルート

譲渡制限株式である以上、どのルートを選んでも発行会社の承認手続き(会社法136条以下)は避けて通れません。そのうえで、買主として現実的な候補は次の3つです。

発行会社(取引先)に買い取ってもらう

最も自然に見える選択肢ですが、株主から求められたからといって、会社に買い取る義務が原則としてあるわけではありません。加えて、会社が自己株式を取得できる金額は分配可能額の範囲に制限されています(財源規制)。取引先に十分な剰余金がなければ、応じたくても応じられないということが起こります。

取引先の経営陣・持株会社・関係会社に譲渡する

発行会社本体の財源に制約がある場合でも、オーナーや持株会社が買主になれるケースがあります。相手にとっては持株比率を高められる話でもあるため、交渉が成立する余地はあります。

第三者に譲渡する

会社側に買う意思も資力もない場合、第三者への譲渡を前提に承認請求を行うルートがあります。譲渡が承認されなかったときのために、承認請求とあわせて買取りも請求しておけば、会社または会社が指定する買取人に買取義務が生じます(会社法140条)。非上場株式を直接買い取る事業者を譲渡先として選べば、買主が確定した状態で手続きを進められます。

法人が売却したときの税務は、個人の場合と大きく違う

個人株主向けの解説をそのまま当てはめると判断を誤ります。法人株主には、次の特徴があります。

譲渡損益は他の損益と通算される

個人が非上場株式を譲渡した場合、譲渡所得は申告分離課税となり、給与や事業の所得と損益通算することはできません。これに対し法人の場合、株式の譲渡損益は益金または損金として通常の所得計算に取り込まれ、他の事業の損益と通算されます。

この違いは実務上大きな意味を持ちます。簿価を下回る価格でしか売れない場合でも、その譲渡損は法人の所得を減らす効果を持ちます。塩漬けにしたまま評価損も計上できない状態を続けるより、売却して損失を実現させるほうが、税務上は意味のある選択になり得るということです。

発行会社に売る場合のみなし配当は、法人には不利とは限らない

発行会社に買い取ってもらう場合(自己株式の取得)、受け取った対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は、みなし配当として扱われます(法人税法24条1項5号)。

個人株主にとって、みなし配当は総合課税の配当所得となり、税負担が重くなりやすい論点でした。ところが法人株主の場合は事情が異なります。みなし配当は受取配当等の益金不算入(法人税法23条)の対象となり、持株割合に応じて一定割合が益金に算入されません。区分は、完全子法人株式等(100%保有)が全額、関連法人株式等(3分の1超)が全額(負債利子相当額の控除あり)、その他の株式等(5%超3分の1以下)が50%、非支配目的株式等(5%以下)が20%です。

取引先の株式をわずかに保有しているという典型的なケースでは非支配目的株式等に当たり、益金不算入は20%にとどまりますが、それでも課税対象から一部が外れます。加えて、みなし配当とされた部分は譲渡対価から除かれるため、譲渡原価との関係で譲渡損が生じることもあります。個人株主のケースとは前提が違う、という点は押さえておく必要があります。

低すぎる価格での譲渡には別のリスクがある

早く整理したいからといって、時価から大きく離れた低い価格で法人間の譲渡を行うと、時価との差額が寄附金と認定されるおそれがあります。法人税法上、寄附金の損金算入には限度があるため、想定した効果が得られないばかりか、思わぬ課税を招くことがあります。価格の妥当性を説明できる算定資料を残しておくことが重要です。

具体的な税額や適用関係は、保有割合・簿価・他の損益の状況によって変わります。実際の判断は顧問税理士にご確認ください。

取引関係への配慮をどう扱うか

現に取引が続いている相手の株式を手放したいというとき、多くの方が気にされるのは「関係が悪くならないか」という点です。

現実的な整理としては、株式の保有と取引条件は本来別の事柄であり、資本関係を解消したからといって取引を打ち切られる筋合いはない、という原則を押さえておくことです。そのうえで、決算後や取引契約の更新期など話を持ち出しやすいタイミングを選ぶ、資産の整理や事業承継の準備といった経理・財務上の理由を前面に出す、といった進め方が取られます。

なお、譲渡制限株式である以上、承認手続きを経る必要があるため、発行会社に知られずに売却することはできません。相手に伝わらないうちに処分するという前提は成り立たないので、伝え方を設計するほうが現実的です。

動き出す前に揃えておくもの

検討を始める前に、次の資料を手元に集めておくと話が早く進みます。

まず、発行会社の定款です。譲渡承認の機関がどこか、種類株式や相続人等に対する売渡請求の定めがあるかを確認します。次に、株券の有無と自社の保有株式数、株主名簿上の記載内容です。株券発行会社であるはずなのに株券が見当たらない、といったケースは実際に起こります。そして、発行会社の直近の決算書です。入手できていない場合、株主として計算書類等の閲覧を請求できる場面があります。

最後に、自社の帳簿上の取得価額です。いくらで取得したものかが分からなければ、譲渡損益も計算できません。古い取得のものほど資料が散逸しがちですので、早い段階で確認しておくことをおすすめします。

保有の経緯が古く、取引の実態も変わっているほど、整理されないまま次の世代へ引き継がれてしまいがちです。まずは自社の保有割合と発行会社の状況を把握したうえで、いくらで現金化できる見込みがあるのかを確認するところから始めるのが現実的です。

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