自己株式の取得とは?会社法上の位置づけと財源規制
執筆・運営:少数株ドットコム株式会社
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はじめに・用語解説
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非上場株式の株主が「会社に買い取ってもらえないか」と考えるとき、そこで起きるのは法律上「自己株式の取得」と呼ばれる行為です。会社が自ら発行した株式を、自分で買い戻して保有する。一見すると当事者どうしの単純な売買ですが、会社法は取得できる場面も、手続きも、金額の上限も細かく縛っています。会社側が慎重になったり、そもそも応じられなかったりする理由の多くは、この規制にあります。株主の立場でも、枠組みを知っておくと交渉の見通しが立てやすくなります。
自己株式の取得が限定列挙されている理由
会社法155条は、株式会社は次に掲げる場合に限り当該株式会社の株式を取得することができる、と定め、13の号を並べています(13号は法務省令に委任されています)。「限り」という書きぶりのとおり、これは限定列挙です。
主なものを挙げると、取得条項付株式の取得事由が生じた場合(1号)、譲渡制限株式の譲渡承認請求にあわせて買取りの請求があった場合(2号。会社法138条1号ハ・2号ハ)、株主との合意により有償で取得する旨の株主総会決議があった場合(3号)、取得請求権付株式について株主から取得の請求があった場合(4号)、全部取得条項付種類株式の取得を決議した場合(5号)、相続人等に対する売渡請求をした場合(6号)、単元未満株式の買取請求があった場合(7号)などです。
ここまで厳しく縛られているのは、自己株式の取得が実質的に出資の払戻しにあたるからです。会社の財産が株主に流出すれば、会社債権者にとっての引き当てが減ります。また、特定の株主だけが有利な条件で会社に買い取ってもらえるなら、残された株主との間で不公平が生じます。債権者保護と株主間の公平という2つの要請が、以下で見る手続きと財源の規制につながっています。
株主との合意で取得する場合の手続き
実務でもっとも登場するのが、155条3号の株主との合意による有償取得です。この場合、まず会社法156条1項により、あらかじめ株主総会の決議で、取得する株式の数、取得と引換えに交付する金銭等の内容と総額、そして株式を取得することができる期間を定めます。この期間は1年を超えることができません。ここで決めるのはあくまで枠であり、誰から買うかはまだ決まっていません。
枠が決まったら、会社法157条で具体的な取得価格などを定め、会社法158条1項によって株主に通知します。原則としてすべての株主に声をかけ、応じた株主から買う形です。いわば社内版の公開買付けにあたります。
これに対し、特定の株主からだけ買いたい場合には、会社法160条1項により、158条の通知をその特定の株主に対して行う旨を、156条1項の決議とあわせて定めることになります。この株主総会決議は特別決議です(会社法309条2項2号)。さらに2つの歯止めがあります。1つは、その特定の株主が当該株主総会で議決権を行使できないこと(会社法160条4項)。もう1つが売主追加請求権で、他の株主は自分をも売主に加えたものを議案とするよう請求することができます(同条3項)。特定の株主だけを優遇させないための仕組みです。
ただし例外もあります。会社法162条は、株主の相続人その他の一般承継人から、相続その他の一般承継により取得した株式を会社が取得する場合には、売主追加請求権の規定を適用しないと定めています。もっとも、会社が公開会社である場合や、その相続人等が当該株式について株主総会・種類株主総会で議決権を行使した場合には、この特則の対象から外れます。相続で株主になった人が、いったん総会で議決権を行使してしまうと扱いが変わり得るということです。
株主の側から見れば、会社に買ってほしいという打診は、会社にとっては株主総会の決議を要する案件だということになります。経営者が口頭で前向きな返事をしても、そこから総会までの距離があることは押さえておくとよいでしょう。
財源規制、分配可能額を超えて買うことはできない
手続きを踏んだとしても、金額には上限があります。会社法461条1項は、剰余金の配当(8号)と並べて、譲渡不承認にともなう買取り(1号)、156条1項の決定に基づく一定の取得(2号)、157条1項の決定に基づく取得(3号)、全部取得条項付種類株式の取得(4号)、相続人等に対する売渡請求に基づく買取り(5号)などを列挙し、これらの行為により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その行為が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないと定めています。配当も自己株式の取得も、株主へ財産が出ていく点では同じだ、という考え方です。
分配可能額は、剰余金の額などを出発点に、自己株式の帳簿価額をはじめとする一定の金額を控除して算出します(会社法461条2項)。細かい計算は会社計算規則に委ねられていますが、感覚としては、配当に回せるだけの余力があるかどうかに近いものです。
取得請求権付株式と取得条項付株式については、461条とは別の条文で同じ趣旨の規制が置かれています。前者は、交付する財産の帳簿価額が請求の日における分配可能額を超えているときは請求できないとされ(会社法166条1項ただし書)、後者は、取得事由の生じた日における分配可能額を超えているときは取得の効力が生じないとされています(会社法170条5項)。
この財源規制は、株主にとって実感を伴う壁になります。会社に買い取る意思があっても、繰越損失を抱えていて分配可能額が乏しければ、法的に買えないという結論になり得るからです。買わないのではなく買えない場合がある、ということです。
規制に反した場合の責任
財源規制を破ったときの責任は重いものです。会社法462条1項は、分配可能額を超えて金銭等の交付が行われた場合、その交付を受けた者と、当該行為に関する職務を行った業務執行者などが、会社に対して連帯して、交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負うと定めています。
業務執行者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明すれば義務を免れます(同条2項)。一方、金銭等の交付を受けた者、つまり株式を売った株主については、そうした免責の定めがありません。売った側にも返還のリスクが及ぶ構造になっている点は、押さえておくべきところです。
さらに、分配可能額の範囲内で行った取得であっても、その行為をした日の属する事業年度の計算書類の承認時に欠損が生じていたときは、その行為に関する職務を行った業務執行者が、欠損の額(株主に交付した金銭等の帳簿価額の総額を限度とします)を会社に支払う義務を負うことがあります(会社法465条1項)。こちらも注意を怠らなかったことを証明すれば免れますが、経営陣にとっては期末の着地まで見据えなければならない負担です。会社が自己株式の取得に踏み切るまでに時間がかかりがちなのは、こうした責任が背景にあります。
取得した後の自己株式はどう扱われるか
会社が取得した自己株式には、議決権がありません(会社法308条2項)。剰余金の配当も、会社法453条が、株式会社はその株主(当該株式会社を除く)に対し剰余金の配当をすることができる、と定めているため、自己株式には行われません。会計上も資産ではなく、純資産の部の控除項目として表示されます。
株主の側から見て見落とせないのは、自己株式に議決権がないことの反射的な効果です。会社がある株主から株式を買い取れば、その分だけ議決権のある株式の総数が減り、残った株主の議決権割合は相対的に上がります。少数株主から自己株式を取得することが、事実上、支配株主の持分比率を高める効果を持つということです。買取価格だけでなく、取得後に誰の影響力が強まるのかという観点も、判断材料になります。
取得した自己株式は、そのまま保有し続けること(いわゆる金庫株)も、消却することもできます。消却する場合は消却する自己株式の数を定める必要があり、取締役会設置会社ではこの決定は取締役会の決議によります(会社法178条)。
税務ではみなし配当が生じる
会社法とは別に、税務上の扱いも押さえておく必要があります。発行会社に株式を買い取ってもらった場合、受け取った対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得に区分されます(所得税法25条1項)。非上場株式の配当は総合課税ですので、所得水準によっては、第三者に売却して譲渡所得の申告分離課税で済ませる場合より税負担が重くなることがあります。
例外として、相続または遺贈により財産を取得し納付すべき相続税額がある人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税対象となった非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず、対価の全額を譲渡所得の収入金額とする特例があります(租税特別措置法9条の7)。適用にあたっては、譲渡する日までに所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。
税額の詳細は、他の所得の状況や取得費を証明できるかどうかによっても変わりますので、実際の判断にあたっては税理士にご確認ください。
株主の立場でどう使うか
最後に、株主の視点で整理しておきます。会社法155条以下は、会社が自己株式を取得することが「できる」場合を定めた規定であって、株主から求められた会社に買取義務を課すものではありません。会社に直接買ってほしいと申し入れることは、法的にはあくまで任意の交渉です。
これに対し、譲渡制限株式について第三者への譲渡承認請求を行い、あわせて買取りの請求もしておいた場合には(会社法138条1号ハ・2号ハ)、会社が承認しないときに会社または指定買取人が買い取らなければならないという枠組みに入ります。同じ会社に買ってもらうという話でも、任意の交渉と法定の手続きとでは立ち位置がまったく違います。
そして、手続きを踏んでも財源規制という壁は残ります。会社に分配可能額の余裕がなければ、いくら交渉しても現金化には至りません。会社への売却が動かない場合には、第三者への譲渡という出口を並行して検討しておくと、行き詰まりを避けやすくなります。
