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従業員持株会を退会するときの株式精算はどう進める?

執筆・運営:少数株ドットコム株式会社

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約9分
構成
6セクション

勤務先の従業員持株会に毎月の給与から拠出してきたが、退職することになった。退会すると自分の持分はどうなるのか、いくら受け取れるのか——非上場会社にお勤めの方から、こうしたご相談をいただくことがあります。上場会社の持株会であれば市場で売却するという出口がありますが、非上場会社にはその市場がありません。そのため、退会時の精算がどう行われるかは、持株会の規約が事実上すべてを決めることになります。

会員が持っているのは「株式」ではなく「持分」であることが多い

従業員持株会の多くは、民法667条1項が定める組合として組成されています。組合は法人ではないため、組合そのものの名義で株式を保有することができません。そこで実務では、買い付けた株式を持株会の理事長の名義でまとめて保有し、各会員は拠出額に応じた持分を持つ、という構成がとられます。

この形態では、株主名簿に記載される株主は理事長であって、会員ではありません。したがって会員が発行会社に対し、株主総会で議決権を行使したり、株主名簿の閲覧を請求したりすることは、原則としてできない立場にあります。議決権は理事長がまとめて行使し、会員の意向を反映させる仕組みを置く場合には、会社法313条が定める議決権の不統一行使が使われます。

もっとも、会員が直接株主名簿に記載され、規約によって譲渡や議決権行使について制約を受ける、という形態の持株会もあります。どちらに当たるかで退会時にできることが変わってきますので、規約と、可能であれば名簿上の記載を先に確認しておくことをおすすめします。

なお配当については、理事長名義の株式に対して支払われたものであっても、実質的な所得は各会員に帰属すると解されており、会員それぞれの配当所得として取り扱われるのが一般的です。また、拠出金に上乗せして会社から支給される奨励金は、福利厚生の一環として支給されるものであっても税務上は給与等に当たり、給与所得として課税されます。

退会から精算までの一般的な流れ

非上場会社の持株会では、退職と同時に会員資格を失い退会となる旨を規約で定めているのが通例です。手続きの流れは、おおむね次のようになります。

1. 規約の確認:退会事由、買取価格の算定基準、株式そのものの交付を受けられるかどうか、精算金の支払時期を確認します。入会時に受け取っているはずのものですが、手元にない場合は持株会の事務局(総務・人事部門が兼ねていることが多くあります)に写しを請求します。

2. 退会届の提出:規約の定める様式で退会を届け出ます。退職に伴う退会は、退職手続きの中で自動的に処理されることもあります。

3. 持分の計算:退会時点の持分を計算します。民法681条1項は、脱退した組合員と他の組合員との間の計算は脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならないと定め、同条2項は、脱退した組合員の持分は出資の種類を問わず金銭で払い戻すことができるとしています。持株会の規約も、この考え方に沿って組み立てられています。

4. 精算金の受領:規約に定められた価格で持株会(または会社、会社の指定する者)が買い取り、代金が支払われます。

上場会社の持株会では、持分が一定の単位に達していれば株式そのものを引き出して自分の名義に移せるのが一般的です。しかし非上場会社の持株会では、株式が社外へ流出することを防ぐ目的から、現物の交付を認めず金銭による精算に限る規約が多く見られます。「退会すれば株式そのものを受け取れるはずだ」という前提は、非上場会社では必ずしも成り立ちません。

買取価格が「取得価額」と定められていることが多い理由

非上場会社の持株会規約では、退会時の買取価格を、会員がその持分を取得したときと同じ価額、すなわち取得価額とする定め方が広く用いられています。理由は大きく二つあります。

一つは、持株会の資金繰りです。買取価格が時価に連動して上昇していくと、退会者が出るたびに持株会が多額の資金を用意しなければならず、制度そのものを維持できなくなります。取得価額であれば、新たに入会する会員が同じ価額で引き取るという循環が成り立ちます。

もう一つは、価格の明確さです。非上場株式には市場価格がなく、規約に「時価」と書いても、それが純資産価額なのか、類似業種比準価額なのか、収益還元によるものなのかで金額は大きく変わります。後の争いを避けるため、規約では一義的に金額が定まる基準を置くのが望ましいとされています。

なお、その取得価額として配当還元方式による価額が用いられている例が少なくありません。財産評価基本通達は、同族株主以外の株主等が取得した株式について、原則的評価方式ではなく特例的評価方式である配当還元方式によることとしており、持株会の会員は通常この少数株主に当たるためです。会社の純資産や利益が積み上がっても配当還元価額はほとんど動かないため、結果として、取得価額と会社の実態との差が年々広がっていくことになります。

その規約は有効なのか——最高裁が示した判断

「入社時に言われるままに署名しただけで、こんな条件があるとは知らなかった」「会社の純資産はこの何倍もあるはずだ」。そう感じたとき、規約の買取条項そのものを争えないかが問題になります。

この点について最高裁判所は、平成21年2月17日の判決で、従業員が持株会から譲り受けた株式を個人的な理由により売却する必要が生じたときは持株会が額面額でこれを買い戻すという、従業員と持株会との間の合意を有効と判断しました。判断にあたっては、従業員持株制度の趣旨・目的に合理性があること、その会社が非公開会社であって株式に市場性がないこと、従業員が制度の内容を了解したうえで自由な意思により額面額で株式を取得していたことなどが考慮されています。

さかのぼって平成7年4月25日の判決でも、退職時に取得したときと同じ額面額で取締役会の指定する者に譲渡する旨の、会社と従業員との間の合意が有効とされています。株主はその有する株式を譲渡することができるという株式譲渡自由の原則(会社法127条)に反するのではないか、公序良俗に反するのではないかという主張は、いずれも退けられました。

つまり、取得価額での買取条項は、原則として有効に機能すると考えておくべきです。ただし、これらはあくまで個別の事情のもとでの判断であり、どのような規約でも常に有効とされるわけではありません。裁判例では、持株会を設けた目的の合理性、当該会社の株式の市場性の有無、取得価額と実際の価値との乖離の程度、譲渡ルールについて会員がどこまで認識していたか、配当が実際に行われてきたか、その配当率や利回りはどの程度かといった要素を総合して判断する傾向がみられます。

提示額に納得できないときに確認したいこと

第一に、規約の文言そのものです。「取得価額」と明記されているのか、「時価」「適正な価額」といった評価の余地が残る言葉なのかで、話は大きく変わります。後者であれば、どの評価方法によるべきかを議論する余地があります。

第二に、入会時の説明と同意の内容です。規約の交付を受けていたか、退会時の買取価格について説明があったか。先の判例が重視した「制度の内容を了解したうえでの自由な意思」に関わる部分です。

第三に、配当の実績です。取得価額での買取という条件は、その間に相応の配当を受け取ってきたという事情とあわせて評価されます。長年にわたり配当がほとんど行われていないのであれば、事情は異なってきます。

第四に、自分が持分権者にとどまるのか、株主名簿上の株主なのかという点です。後者であれば、規約上の債権的な義務とは別に、会社法上の株主として第三者への譲渡承認請求を行う道が制度上は残されています。

非上場会社の持株会ならではの注意点

親会社が非上場で、グループ各社の従業員がその親会社の株式を持つ持株会に加入している、というケースでは注意すべき点が増えます。勤務先の子会社を退職すれば持株会も退会となりますが、対象となる株式は非上場の親会社株式であり、市場もなければ譲渡制限も付いているのが通常です。会社を離れた時点で、その株式との接点が規約だけになってしまいます。

「将来上場すれば大きな資産になる」という説明を受けて加入したものの、上場の見通しが立たないまま長い年月が経った、という状況も少なくありません。上場を前提とした期待と、規約上の取得価額での買取という現実は、まったく別のものとして切り分けて考える必要があります。

また、退職後も会員として残れるかどうかも規約次第です。会員資格を在籍する役員・従業員に限定している規約であれば、退職と同時に退会となり、持ち続けるという選択肢自体がありません。会員が死亡した場合の扱いも同様で、相続人が持分を引き継げるのか、その時点で精算されるのかは規約に定められています。

これらはいずれも、退職を決めてから確認したのでは選択の幅が狭くなる事柄です。転職や定年が視野に入った段階で規約を取り寄せておくと、判断できることが増えます。

精算金・現物交付を受けたあとの税金と、その先の選択肢

退会に伴って持分が買い取られた場合、その精算は税務上、株式等の譲渡として扱われるのが基本です。譲渡価額から取得費と譲渡費用を差し引いた金額が譲渡所得となり、給与など他の所得とは分けて計算する申告分離課税の対象になります。税率は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えたものです。取得費は、持株会から交付される退会精算書や投資報告書に記載された簿価をもとに計算しますので、これらの書類は必ず保管しておいてください。

規約上、株式そのものの交付を受けられる場合には、その先の選択肢が広がります。自分の名義で株主名簿に記載されれば、以後は一人の株主として、保有を続けるのか、発行会社に買取りを打診するのか、第三者に売却するのかを自分で判断できる立場になります。譲渡制限株式であれば、会社法136条以下の譲渡承認請求の手続きを踏むことになります。なお、発行会社自身に買い取ってもらう場合には、対価のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額がみなし配当として配当所得に区分されるため、第三者への売却とは税負担の計算が変わる点にも留意が必要です。

持株会の退会は、規約という契約に沿って進む手続きです。それだけに、動き出す前に規約を手元に置いて内容を確認できているかどうかが、結果を大きく左右します。提示された金額に疑問がある場合は、規約の文言と入会時の経緯を整理したうえで、弁護士や税理士に相談されることをおすすめします。

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