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非上場株式の株価はどう決まる?代表的な3つの評価方法
執筆・運営:少数株ドットコム株式会社
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株価算定
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非上場株式には取引所の時価がないため、売買のたびに株価を算定する必要があります。しかも厄介なことに、「正しい株価がひとつだけある」わけではありません。相続税を計算するための評価額、税務上の時価、実際に売買が成立する価格は、それぞれ別の考え方で導かれます。
企業価値の評価手法は、大きく3つのアプローチに分類されるのが一般的です。会社が持っている資産と負債に着目するのがコストアプローチ(ネットアセットアプローチ)で、純資産価額方式や時価純資産法がここに含まれます。市場で成立している価格を参照するのがマーケットアプローチで、類似業種比準方式や類似会社比準法(マルチプル法)が該当します。会社が将来生み出す収益に着目するのがインカムアプローチで、DCF法や収益還元法、配当還元法がこれにあたります。
過去(貸借対照表)を見るか、他社(市場)を見るか、将来(事業計画)を見るか、という視点の違いです。同じ会社を評価しても結論が大きく食い違うことがあるのは、そもそも見ている対象が違うからにほかなりません。以下、代表的な3つの評価方法を順に見ていきます。
1つ目:純資産価額方式(コストアプローチ)
会社の貸借対照表をもとに、資産から負債を差し引いた純資産を発行済株式数で割って1株あたりの価値を求める方法です。帳簿価額をそのまま使う簿価純資産法と、資産・負債を時価に洗い替える時価純資産法(修正純資産法)があり、実務で意味を持つのは後者です。会社の保有資産(不動産や有価証券など)の含み益が大きい場合、帳簿上の純資産よりも評価額が高くなることがあります。
相続税評価の場面では、財産評価基本通達185がこの方式を定めています。各資産を相続税評価額に洗い替えて総資産価額を求め、そこから負債の合計額を差し引き、さらに「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」を控除したうえで発行済株式数で割ります。含み益を実際に実現すれば法人税等の負担が生じるという考え方から、相続税評価額による純資産価額と帳簿価額による純資産価額の差額に一定割合を掛けた金額を差し引く仕組みです。
この割合は長く37%とされてきましたが、令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設されたことに伴い、令和8年3月25日付の通達改正で38%に引き上げられました。令和8年4月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した取引相場のない株式等の評価から適用されます(財産評価基本通達186-2)。
もうひとつ押さえておきたいのが、株式の取得者とその同族関係者が有する議決権の合計数が議決権総数の50%以下である場合には、算出した1株あたりの純資産価額に100分の80を乗じるという定めです(財産評価基本通達185ただし書)。支配権を持たない立場での取得であることを評価に反映させる趣旨です。
なお、課税時期前3年以内に取得または新築した土地・家屋等については、路線価などによる評価ではなく、課税時期における通常の取引価額で評価します。直前に取得して値段がはっきりしている資産をわざわざ評価替えするのは合理的でないためです。
この方式の弱点は、将来の収益力をまったく織り込めないことです。資産をほとんど持たずに人の力で稼ぐ会社では、実態より低い数字が出やすくなります。
2つ目:類似業種比準方式(マーケットアプローチ)
同業種の上場企業の株価指標と比較して評価する方法で、相続税評価額の算定(国税庁方式)でよく用いられます。財産評価基本通達180が算式を定めており、類似業種の株価Aに対して、配当金額・利益金額・純資産価額の3要素それぞれについて「評価会社の数値÷類似業種の数値」を計算し、3つを足して3で割った比準割合を掛け、さらに斟酌率を掛けて求めます。
この3要素の比重は、かつて配当1・利益3・純資産1でしたが、平成29年度の改正で1対1対1に改められました。単年度の利益の振れが株価を動かしすぎるという問題への対応です。斟酌率は会社規模に応じて、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5とされています。計算は1株あたりの資本金等の額を50円としたベースで行い、最後に実際の1株あたり資本金等の額が50円の何倍かを掛けて調整します。
上場企業の水準を参照するため、業績が好調な業界では評価額が上振れしやすい傾向があります。
なお、M&Aの実務で使われるマーケットアプローチはこれとは別のもので、類似する上場企業のEV/EBITDA倍率やPERといった倍率を対象会社の指標に掛ける類似会社比準法(マルチプル法)が中心です。国税庁方式にせよマルチプル法にせよ、「似た会社」をどう選ぶかで結果が動くため、比較対象の妥当性が論点になりやすい手法だという点は共通しています。
3つ目:DCF法(インカムアプローチ)
会社が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価します。割引率には資本コスト(WACC)が用いられ、事業計画の期間を超えた部分は継続価値として別途見積もります。将来性を織り込める一方、事業計画の前提次第で評価額が大きく変動しやすい方法でもあります。
単年度の正常収益力を資本還元率で割り戻す収益還元法や、配当金額を還元する配当還元法も、同じインカムアプローチに属します。また中小企業のM&Aでは、時価純資産に営業利益の数年分を上乗せする年買法(年倍法)という簡便な方法も広く使われますが、上乗せする年数にファイナンス理論上の裏づけがあるわけではありません。交渉の出発点をつくるための目安と理解しておくのが正確です。
会社規模によって使う手法が変わる
相続税評価では、どの手法を使うかが会社の規模によってあらかじめ決められています。財産評価基本通達178は、従業員数・総資産価額・取引金額をもとに、評価会社を大会社・中会社・小会社に区分します。課税時期の直前期末の従業員数が70人以上であれば、他の基準にかかわらず大会社です。総資産価額と取引金額の基準額は業種(卸売業、小売・サービス業、それ以外)によって異なります。
そのうえで通達179が、大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は原則として純資産価額方式、中会社は両者の併用によると定めています。中会社の併用割合(Lの割合)は規模に応じて0.90・0.75・0.60の3段階です。ただし納税義務者の選択により、大会社が純資産価額方式によることも、小会社がLを0.50とした併用方式によることもできます。
経営に関与しない少数株主が取得した株式については、これらとは別に配当還元方式が使われます(財産評価基本通達188、188-2)。年配当金額を10%で還元するという考え方で、無配または年配当金額が2円50銭未満の場合は2円50銭として計算します。同族株主かどうかの判定基準は、別の記事で詳しく整理しています。
相続税評価額、税務上の時価、実勢価格は別物
ここまで見てきた通達上の評価額は、あくまで相続税・贈与税を計算するためのものさしです。同じ株式でも、目的が変われば数字は変わります。
たとえば個人が非上場株式を譲渡する場合の税務上の時価については、所得税基本通達59-6が財産評価基本通達を準用しつつ、3つの読み替えを求めています。譲渡直前に「中心的な同族株主」に該当する個人が譲渡するときは発行会社を常に小会社として評価すること、発行会社が土地や上場有価証券を有しているときはそれらを譲渡の時における価額で評価すること、そして評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないことです。いずれも評価額が高く出る方向に働く読み替えで、相続税評価額をそのまま売買価格に流用すると課税上の問題が生じうることを示しています。
そして実際の売買価格は、これらの計算とはまた別に、当事者の交渉で決まります。国税庁方式で高い評価額が出ても、買い手がつかなければその金額では現金化できません。逆に、支配権に近づく株式や事業上のシナジーが見込める株式には、計算上の金額を上回る価格がつくこともあります。
裁判所が価格を決めるとき
譲渡承認が得られず会社または指定買取人が買い取ることになった場合の売買価格決定(会社法144条)や、組織再編に反対した株主の買取請求(会社法785条など)では、協議が調わなければ裁判所が価格を判断します。
裁判例では、事案に応じて収益還元法・純資産方式・配当還元方式などを単独で、あるいは複数を一定の割合で組み合わせて用いる扱いがされています。経営に関与しない少数株式の事案では配当還元法に重きが置かれ、取得後に支配権を得る事案では収益還元法が重視されるなど、対象となる株式の性格によって手法の選び方が変わります。
また最高裁は平成27年3月26日の決定で、反対株主の株式買取請求における「公正な価格」の算定にあたり、収益還元法によって算定された非上場株式の価格について、市場性がないことを理由とする非流動性ディスカウントを行うことはできないと判示しています。少数株主が不利な立場で株式を手放さざるを得ない場面において、その保護を実質的なものにするための判断です。
どう使い分けるか
3つの評価方法は、どれかひとつが正解というものではなく、会社の実態と評価の目的に応じて使い分けられます。資産を多く抱える会社であれば純資産価額方式が、安定して利益を出している会社であれば類似業種比準方式やインカムアプローチが、それぞれ実態に近い数字を出しやすいでしょう。
売却を検討するのであれば、まず相続税評価額の水準を把握し、そのうえで実際に買い手がつく価格帯を確認するという二段構えが現実的です。両者は一致しないことのほうが多く、その差を知らないまま交渉に入ると、提示された金額が妥当なのかどうかを判断する材料を持てません。純資産価額方式の具体的な計算の流れは、架空の設例で計算過程を追った別の記事で解説しています。
