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非上場株式の遺産分割はどう進める?現物・代償・換価の3つの分け方
執筆・運営:少数株ドットコム株式会社
カテゴリ
相続
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相続財産に非上場株式が含まれていると、遺産分割の話し合いは一気に複雑になります。取引所の相場がないため「この株式はいくらの財産なのか」という入口から意見が割れやすく、しかも不動産と同じように物理的に切り分けることができません。加えて、話し合いが長引くほど会社の意思決定にも影響が及びます。ここでは、分割が成立するまで株式がどういう状態に置かれるのかを確認したうえで、3つの分け方それぞれの実務上の注意点を整理します。
遺産分割が終わるまで、株式は相続人全員の準共有
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属します(民法898条1項)。2021年の改正で同条2項が加わり、共有に関する規定を適用するときは民法900条から902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とすることが明文化されました。株式のような権利の共有は講学上「準共有」と呼ばれますが、扱いは共有と同じです。
ここで効いてくるのが会社法106条です。株式が2人以上の共有に属するときは、共有者はその株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社が権利行使に同意した場合を除きます)。議決権も剰余金の配当を受ける権利も、この指定と通知を経なければ動かせないということです。
では、その1人をどう決めるのか。最高裁は平成27年2月19日の判決で、共有に属する株式についての議決権の行使は、直ちに株式を処分し、または株式の内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられると判示しました(民法252条)。相続分の合計で過半数を占める側が権利行使者を指定できるということですので、相続分の少ない相続人は、分割が終わるまで議決権にも配当にも実質的に関与できない立場に置かれることがあります。この点は最初に押さえておく必要があります。
分け方は3つ。共有のまま持ち続ける選択は勧められない
以下は相続人間の協議で分ける場合の話です。被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めていれば(民法908条1項)、まずはその内容が優先します。ただし、遺言で株式を後継者1人に集中させた場合、他の相続人は遺留分侵害額請求として金銭の支払を求めることができます(民法1046条)。2019年7月1日施行の改正でこの請求権は金銭債権とされましたので、請求によって株式そのものが共有になる事態は避けられる一方、請求を受けた側は現金を用意する必要が出てきます。遺言があっても資金手当ての問題は残るということです。
現物分割
特定の相続人が株式をそのまま取得する方法です。事業を承継する人が決まっている場合には最もシンプルで、後継者に議決権を集約できます。一方、株式以外にめぼしい財産がないと他の相続人の取り分を確保できず、公平性の点で合意を得にくくなります。
代償分割
1人または一部の相続人が株式を取得し、その代わりに他の相続人へ代償金として金銭を支払う方法です。株式を後継者に集約しながら他の相続人にも取り分を確保できるため、非上場株式の遺産分割では比較的よく使われます。
換価分割
相続人全員でいったん相続したうえで株式を売却し、その代金を分配する方法です。代償金の原資を用意できないときの現実的な選択肢であり、売却額という客観的な数字が出るぶん、評価をめぐる対立が起きにくいという利点もあります。
なお、あえて分けずに共有のまま持ち続けること(共有分割)も制度上は可能ですが、先に述べた権利行使者の指定をめぐって争いが蒸し返される余地が残り、相続人の次の世代ではさらに持分が細分化されます。実務では避けられる傾向にあります。
代償分割は、金銭を用意できるかと評価額をどう置くかで決まる
代償分割の前提は、株式を取得する人が代償金に充てる金銭を用意できることです。自己資金で足りなければ、金融機関からの借入や、取得した株式の一部を発行会社に買い取ってもらって原資に充てるといった手当てが必要になります。
税務上の扱いも押さえておきましょう。相続税法基本通達11の2-9は、代償分割が行われた場合、代償財産の交付を受けた者の課税価格は相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額、交付をした者の課税価格は現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額とすると定めています。代償金は課税価格の付け替えとして扱われ、贈与とみなされるわけではありません。
問題は、代償金の額をどの数字を基準に決めるかです。同通達11の2-10は、代償財産の価額は原則として代償債務の額の相続開始の時における金額によるとしつつ、共同相続人および包括受遺者の全員の協議に基づいて合理的と認められる方法により計算して申告があった場合はその金額により、代償債務の額が対象財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているときは所定の算式により計算した金額によるとしています。相続税評価額と実勢価格が離れやすい非上場株式では、どちらを基準に代償金を決めたかが各人の課税価格に影響します。協議書に代償金の算定根拠をどう書くかも含め、税理士と詰めておくべき論点です。
換価分割は、譲渡制限と買い手の当てを先に確認する
換価分割を選ぶ場合、非上場株式に特有の制約が2つあります。
1つ目は譲渡制限です。相続によって株式を取得すること自体に会社の承認は不要ですが(会社法134条4号)、その株式を第三者へ売却する段階では譲渡承認請求が必要になります(会社法136条以下)。承認されない場合、あわせて買取りを請求していれば会社または指定買取人が買い取ることになり、価格が折り合わなければ裁判所の売買価格決定の手続へ進みます(会社法140条・144条)。譲渡先が決まっているかどうかで、手続きの見通しは大きく変わります。
2つ目は、そもそも買い手が見つかるとは限らないという点です。売って分けると決めたのに売却先が現れず、話し合いが振り出しに戻ることは珍しくありません。換価分割を選択肢に入れるなら、非上場株式を直接買い取る事業者に打診し、実際にいくらで現金化できるのかを協議の前に把握しておくと、議論の土台が定まります。
税務面では、換価分割は相続人各自が譲渡所得を申告する形になります。売却代金の配分割合に応じて各相続人がその割合で譲渡したものとして扱われるため、手続上は代表者1人が売却を進めた場合でも、その1人だけの所得として整理されるわけではありません。また、相続または遺贈により取得した財産を、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、納付した相続税額のうち一定額を取得費に加算できる特例があります(租税特別措置法39条)。相続開始から数えるとおおむね3年10か月が期限ですので、売却時期を判断する材料になります。
意識しておくべき3つの期限
1つ目は相続税の申告期限です。相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内とされており、この時点で分割が済んでいなければ、法定相続分で取得したものとして申告・納税することになります。未分割のままだと配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は適用できませんが、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておけば、申告期限から3年以内に分割が成立した場合に更正の請求によって特例の適用を受けられます。この書面の添付を失念すると、後から分割できても特例が使えなくなります。
2つ目は民法904条の3です。2023年4月1日に施行された規定で、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割は、原則として特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分ではなく、法定相続分(または指定相続分)によることとされました。10年を経過する前に相続人が家庭裁判所へ遺産分割の請求をした場合などの例外はありますが、長期化するほど主張できる範囲が狭まる仕組みです。
3つ目は、定款に相続人等に対する売渡請求の定めがある場合の1年です。会社法174条は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることを認めています。この請求は、会社が一般承継があったことを知った日から1年を経過するまでの間に、株主総会の特別決議を経て行う必要があります(会社法176条1項)。注意したいのは、売渡請求の対象となる株主は、他に議決権を行使することができる株主がいない場合を除き、その決議において議決権を行使できないという点です(会社法175条2項)。株式を承継した相続人が持株比率のうえでは多数派であっても、この決議に限っては他の株主だけで可決されうるということです。話し合いに入る前に、まず定款にこの定めがあるかを確認しておくべき理由がここにあります。
まとまらないときは調停、それでも決まらなければ審判
遺産の分割について共同相続人間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、各共同相続人はその全部または一部の分割を家庭裁判所に請求することができます(民法907条2項)。遺産分割は法律上の調停前置事件ではないため審判を直接申し立てることも可能ですが、実務上、裁判所はまず当事者に話し合いをさせるため事件を調停に付するのが通例です(家事事件手続法274条1項)。調停が成立しなければ、審判手続へ移行します。
審判では、遺産に属する物または権利の種類および性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮して分割の方法が決められます(民法906条)。非上場株式については株価の鑑定が行われることもあり、その費用と時間は当事者の負担になります。手続に乗せれば早く決まるというものではない、という点は見込んでおいたほうがよいでしょう。
実務では、価格の見当をつけてから話し合いに入る
分け方の議論は、株式をいくらと見るかが定まらないまま始めると空転します。順序として先に手をつけたいのは、次の3点です。
まず定款と登記事項証明書です。譲渡制限の内容、承認機関が株主総会か取締役会か、相続人等に対する売渡請求の定めの有無を確認します。次に株主名簿と直近数期の決算書です。誰がどれだけ持っているかという株主構成と、純資産や利益の水準がわかれば、評価額のおおよその幅は見えてきます。そして、相続税評価額と実際に現金化できる金額は別物だという前提に立ち、両方の数字を並べることです。
相続税評価額は課税のための金額であり、買い手がその金額で買うことを保証するものではありません。逆に、評価額が低くても事業や保有資産の実態から見て高い値がつくこともあります。代償分割にするか換価分割にするかの判断は、結局のところこの株式は現金にするといくらになるのかがわからなければ決められません。売却を決めていない段階であっても、非上場株式を直接買い取る事業者に見当を尋ねておくことは、協議の材料として意味があります。
