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業績不振の同族会社株式、相続放棄すべき?判断のポイント
執筆・運営:少数株ドットコム株式会社
カテゴリ
相続
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親族が経営していた会社の株式を相続することになったものの、直近の決算は赤字で、金融機関からの借入も残っている。こうした場面で「この株式は引き継がないほうがよいのではないか」と考えるのは自然なことです。ただ、相続放棄はその株式だけを切り離す制度ではありませんし、判断を実際に左右するのは株式そのものより別の要素であることが少なくありません。順を追って整理します。
相続放棄は「財産の選り好み」ができない
まず前提として、相続放棄は特定の財産だけを選んで手放す制度ではありません。相続の放棄をした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。株式を放棄するということは、預貯金も自宅も含めてすべてを放棄するということです。
プラスの財産の範囲内でのみ債務を弁済する「限定承認」という制度もあります(民法922条)。株式に価値があるかどうか判断がつかない場面では理屈のうえで有力な選択肢ですが、相続人が複数いるときは共同相続人の全員が共同してでなければ申述できず(民法923条)、財産目録の作成や清算手続といった負担も伴います。誰か1人が単純承認してしまうと使えなくなるため、実際の利用件数は多くありません。
混同されやすいものに「相続分の放棄」と「相続分の譲渡」があります。いずれも遺産分割の場面で自分の取り分を他の相続人などに渡す方法ですが、家庭裁判所への申述を要する相続放棄とは異なり、相続人としての地位そのものは残ります。したがって、これらをしても被相続人の債務からは免れません。債務を切り離したいのであれば法的には相続放棄しかない、という点は明確に区別しておく必要があります。
3か月という期限と、その起算点
相続放棄も限定承認も、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません(民法915条1項)。申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。この期間内に財産の全体像がつかめない場合には家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることができますが(同項ただし書)、その申立て自体を期間内に行う必要があります。
期間を過ぎると、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)。もっとも、起算点には例外があります。最高裁は昭和59年4月27日の判決で、相続人が相続財産が全く存在しないと信じ、被相続人との交際状態その他の事情から相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難で、そう信じたことに相当な理由があると認められる場合には、相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から熟慮期間を起算すべきであると判示しました。長年疎遠だった親族の株式や保証債務が後から判明した、といった事案で問題になる論点です。ただし認められるかどうかは事情次第であり、あてにして動くべきものではありません。
より注意したいのは民法921条1号です。相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認をしたものとみなされます。被相続人名義の預金を引き出して使う、株式の名義書換を請求する、株主として議決権を行使するといった行為は処分にあたると判断されるおそれがあります。放棄を検討している段階では、会社から求められても相続人としての権利行使に踏み込まないほうが安全です。
会社の借金が株主に降りかかるわけではない
よくある誤解を先に解いておきます。会社が債務超過であっても、株主が会社の債務を個人で負担する義務を当然に負うわけではありません。株主の責任はその有する株式の引受価額を限度とするとされており(会社法104条)、これを株主有限責任の原則といいます。株式会社は株主とは別個の法人格を持つため、会社の借入がそのまま株式を相続した人に降りかかる、という理解は正確ではありません。
したがって、株式それ自体が「マイナスの財産」になることは原則としてありません。価値がゼロに近いことはあっても、持っているだけで支払義務が生じるものではない、というのが出発点です。
判断を左右するのは、株式ではなく連帯保証
一方で、まったく別に検討しなければならないのが保証債務です。中小企業では経営者個人が会社の借入に連帯保証を付けているケースが多く、この保証債務は相続の対象になります。しかも、金銭債務その他の可分債務は遺産分割を待たずに法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて承継するというのが判例の立場です(最判昭和34年6月19日)。遺産分割協議で「借金は長男が引き受ける」と決めても、それを債権者に対抗することはできません。
金額の範囲については、根保証かどうかで扱いが変わります。個人根保証契約では、主たる債務者または保証人が死亡したときに主たる債務の元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。したがって相続人が負うのは原則として死亡時までに発生していた債務の範囲であり、その後に会社が新たに借り入れた分まで無限に膨らむわけではありません。
また、保証債務を承継した場合でも、直ちに破産しかないわけではありません。経営者保証に関するガイドライン研究会が平成25年12月に公表した「経営者保証に関するガイドライン」は、主債務者である会社の債務整理と保証人の保証債務の整理を、特定調停等の準則型私的整理手続によって一体的に行うことを原則としています。この枠組みによる整理では、破産手続における自由財産に加えて、経済合理性が認められる範囲で一定期間の生計費に相当する額や華美でない自宅などを残存資産として残せる余地があります。放棄か承認かを決める前に、金融機関がこのガイドラインに沿った対応をとりうるかを確認する価値があります。
つまり、株式に価値があるかどうかより、保証債務がいくらあるのかのほうが判断への影響は大きくなります。決算書だけを見て決めるのではなく、金銭消費貸借契約書と保証契約書を確認することが先決です。
相続放棄を選ぶと、次に何が起きるか
放棄すればそれで終わり、とはいきません。副次的に生じる効果をいくつか挙げます。
相続権は次の順位の相続人へ移ります。子が全員放棄すれば直系尊属へ、直系尊属がいなければ兄弟姉妹へと移り(民法889条)、事情を知らない親族が突然債権者から請求を受けることになりかねません。放棄する場合は、次順位となる親族へ事前に伝えておくのが実務上の配慮です。
相続人が全員放棄すると相続人のあることが明らかでない状態となり、利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民法952条。令和5年4月1日施行の改正で、従来の相続財産管理人から名称が改められました)。選任には予納金が必要になることが多く、誰がその費用を負担するのかという問題が残ります。
放棄した後も、放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。2023年4月1日施行の改正で、義務を負う対象が「現に占有している」者に限定され、内容も保存義務として整理されました。
税務上の扱いにも独特の点があります。相続税の基礎控除や、生命保険金・死亡退職金の非課税限度額の計算に用いる法定相続人の数は、相続の放棄があった場合でも、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数によります(相続税法15条2項ほか)。放棄によって基礎控除が減ることはありません。他方、死亡保険金は受取人固有の財産とされるため放棄をしても受け取れますが、非課税限度額の適用があるのは相続人が取得した保険金に限られるため、放棄した人が受け取る保険金にこの非課税枠は使えません。放棄しても保険金だけは満額もらえて税金も変わらない、という理解は誤りです。
放棄せずに株式だけを手放すという選択
守りたい財産がある、あるいは保証債務が存在しないか、あっても対応可能な範囲にとどまる。そうした場合には、相続自体は承認したうえで、株式の扱いだけを別に考える道があります。
1つは、遺産分割協議で株式を後継者となる特定の相続人に集約する方法です。経営に関わらない相続人は、代償金や他の財産で取り分を確保しつつ、少数株主として株式を持ち続ける状態を避けられます。
もう1つは、相続した株式を売却して現金化する方法です。発行会社に買い取ってもらう、他の株主に譲る、第三者の買取事業者に譲渡するといった選択肢があります。売却先によって課税関係が変わる点、譲渡制限株式であれば第三者への譲渡には会社の承認手続きが必要になる点は、それぞれ別の記事で扱っています。業績が振るわない会社の株式であっても、保有する不動産や有価証券の内容によっては一定の評価がつくことがあり、価値がないと決めつける前に確認しておく意味はあります。
3か月で集めるべき材料
限られた期間で判断するために、優先して確認したい資料は次のとおりです。会社の直近3期程度の決算書と勘定科目内訳明細書。金融機関からの借入残高一覧と、被相続人が署名した保証契約書。被相続人名義の預貯金・不動産などプラスの財産の一覧。そして会社の定款と株主名簿です。定款は、相続人等に対する売渡請求の定めがあるかを確認するために必要になります。
そのうえで、保証債務が絡む場合は個別性が高く、判断を誤ると取り返しがつきません。3か月の期限を意識しつつ、資料が揃った段階で早めに弁護士に相談することをおすすめします。株式に値がつくかどうかも判断材料に加えたいのであれば、並行して非上場株式の買取を扱う事業者に見当を尋ねておくと、承認と放棄のどちらが合理的かを数字で比較しやすくなります。
