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会社の合併・組織再編に反対したら?「反対株主の株式買取請求権」とは

執筆・運営:少数株ドットコム株式会社

カテゴリ

少数株主の権利

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約10分
構成
7セクション

自分が株式を持つ非上場会社が、合併や会社分割、株式交換といった組織再編を行うことになった。提案された条件に納得がいかず反対したいが、株主総会で可決されれば会社の決定は覆らない。そんなとき、会社法は反対した株主のための出口をあらかじめ用意しています。それが「反対株主の株式買取請求権」です。

この制度は、組織再編などの議案が可決されても、それに反対した株主が、自己の保有する株式を「公正な価格」で買い取るよう会社に請求できるというものです。多数決で決まったことに従わせる代わりに、納得できない株主には投資を回収して抜ける道を用意する。会社法のなかでも、少数株主の保護がはっきりと形になっている制度のひとつです。

どんな行為が対象になるのか

まず押さえたいのは、買取請求権はいつでも使える権利ではなく、会社法が定めた特定の行為に反対したときにだけ発生するという点です。根拠条文は行為ごとに分かれています。

組織再編については、吸収合併の消滅会社・吸収分割の分割会社・株式交換の完全子会社の株主に会社法785条、吸収合併の存続会社・吸収分割の承継会社・株式交換の完全親会社の株主に797条、新設合併・新設分割・株式移転には806条が適用されます。令和元年改正会社法で新設された株式交付についても、株式交付親会社の株主に816条の6が同様の権利を定めています。

組織再編以外にも対象があります。事業の全部または重要な一部の譲渡といった事業譲渡等には469条。株式の内容として譲渡制限や全部取得条項を設ける定款変更など、株式の性質そのものを変えてしまう行為には116条。株式併合によって1株に満たない端数が生じる場合には182条の4。いずれも「株主が当初想定していた投資の前提が、多数決によって変えられてしまう場面」という点で共通しています。

反対に、すべての株主の同意がなければ実行できない行為には、この制度は用意されていません。株式会社から持分会社への組織変更がその例です。組織変更は効力発生日の前日までに総株主の同意を得なければならないとされているため(会社法776条1項)、反対する株主が1人でもいれば組織変更そのものが成立しません。買取請求権を置く必要がないわけです。合併と同じ感覚で条文を探しても見つからない箇所なので、注意しておくとよいでしょう。

また、組織再編であっても買取請求権が認められない場面があります。代表的なのが簡易組織再編です。承継する資産や交付する対価の規模が小さく、存続会社側の株主総会決議を省略できる場合には、存続会社の株主に買取請求権は生じません(会社法797条1項ただし書)。会社の規模に照らして影響が軽微だからです。事業譲渡等についても、事業の全部の譲渡と同時に解散を決議する場合など、除外される場面が定められています。

「反対株主」になるには手順がある

条文の見出しが「反対株主の株式買取請求」となっているとおり、この権利を行使できるのは反対株主に限られます。そして反対株主に当たるかどうかは、心のなかで反対していたかではなく、決められた手順を踏んだかどうかで判断されます。

株主総会の決議が必要な場合、議決権を行使できる株主は、株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に通知し、かつ、実際にその株主総会で反対の議決権を行使する、という2つを満たす必要があります。どちらか一方が欠けると反対株主に当たらず、買取請求権を失います。実務でつまずきやすいのは、総会当日に反対しただけで事前の通知を出していなかったというケースです。

一方、議決権制限株式を保有しているなど、そもそもその総会で議決権を行使することができない株主は、事前の通知や反対の議決権行使をしなくても反対株主に当たるとされています。行使しようのない手続きを要求するのは筋が通らないためです。

さらに、株主総会の決議自体が不要な場合もあります。総株主の議決権の10分の9以上を保有する特別支配会社が相手方となる略式組織再編がその例で、この場合は総会決議を経ずに手続きが進みます。そこで会社法は、こうした場合には特別支配会社を除くすべての株主を反対株主として扱うと定めています。総会がない以上、反対の意思表示の機会もないからです。

請求できる期間は極めて短い

権利があっても、期間を過ぎれば行使できません。ここが実務上いちばんの落とし穴です。

吸収合併等や事業譲渡等、116条の定款変更については、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、買取請求に係る株式の数を明らかにして請求しなければなりません(会社法785条5項・469条5項など)。新設合併・新設分割・株式移転については、会社からの通知または公告があった日から20日以内です(806条5項)。

会社の側には、この期間に先立って株主に知らせる義務があります。たとえば吸収合併等では、効力発生日の20日前までに、組織再編を行う旨と相手方会社の商号・住所を株主に通知しなければならず、公開会社である場合などは公告で代えることができるとされています(785条3項・4項)。裏を返せば、この通知や公告が届いた時点で、残された時間は20日程度しかないということです。

なお、いったん買取請求をすると、原則として会社の承諾を得なければ撤回できません(会社法785条7項など)。価格交渉の様子を見てから引っ込める、という使い方はできない建て付けになっています。

「公正な価格」はどう決まるのか

条文は買取価格を「公正な価格」としか書いていません。具体的な算定式は法律に書かれておらず、協議が調わなければ最終的には裁判所の判断に委ねられます。

最高裁の決定によって示されている整理は、おおむね次のとおりです。その組織再編によって企業価値の増加(シナジー)が生じない場合には、その組織再編がなかったとしたら株式が有していたであろう価格、いわゆる「ナカリセバ価格」を公正な価格とします。企業価値の増加が生じる場合には、組織再編の条件が公正なものであったならば株式が有していたと認められる価格、つまり増加分の適切な分配を織り込んだ価格が公正な価格とされます。そして、価格を判断する基準となる時点は、株式買取請求がされた日とされています。

上場会社であれば市場株価という出発点がありますが、非上場会社にはそれがありません。純資産をもとにするコストアプローチ、同業他社の指標と比較するマーケットアプローチ、将来のキャッシュフローを割り引くインカムアプローチ(DCF法)といった手法を、会社の実態に応じて組み合わせて算定することになります。どの手法をどの比重で用いるかによって結論が動くため、価格をめぐる争いは、実質的には評価方法をめぐる争いになりがちです。

協議が調わないときの流れ

買取価格は、まず会社との協議によって定めるのが原則です。協議が成立した場合、会社は効力発生日から60日以内に代金を支払わなければなりません(会社法786条1項)。

協議が調わない場合の道筋も条文に定められています。効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、株主または会社は、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(786条2項)。逆にいえば、効力発生日から60日を過ぎても申立てがなされなければ、株主はその後いつでも買取請求を撤回できることになります(同条3項)。

ここで押さえておきたい点が3つあります。

1つ目は、価格が決まっていなくても、株式の買取り自体は効力発生日に効力を生じるということです(786条6項)。つまり、代金を受け取っていない段階ですでに株主ではなくなっており、その後の株主総会に出席することも配当を受けることもできません。株主から債権者に立場が変わる、という点は理解しておく必要があります。

2つ目は利息です。会社は、裁判所が決定した価格に対し、効力発生日から60日の期間が満了した日より後の法定利率による利息もあわせて支払わなければならないとされています(786条4項)。支払いを引き延ばせば会社の負担も増える建て付けです。

3つ目は、会社の側から先に支払える仕組みがあることです。会社は、価格の決定があるまでの間、自らが公正な価格と認める額を株主に支払うことができるとされています(786条5項)。会社がこれを行うと、支払った額については利息の発生を抑えられます。争いが長引きそうな場面で会社側が用いる手ですので、提示された額を受け取ることが価格の合意を意味するのかどうかは、慎重に確認しておくべきところです。

譲渡承認の売買価格決定手続きとの違い

混同しやすいのが、譲渡制限株式について会社の譲渡承認が得られなかった場合に、会社(または指定買取人)との間で行う売買価格決定の手続きです(会社法144条)。名前も似ており、どちらも最終的に裁判所が価格を決める点は共通しています。

しかし、起点がまったく違います。144条の手続きは、株主自身が第三者への譲渡を試み、それが承認されなかったことをきっかけに始まります。株主が能動的に売却を望んだ場面です。これに対し反対株主の株式買取請求は、会社が主導する組織再編等に株主が反対したことをきっかけに始まります。株主の側は、自分から売ろうとしたわけではなく、投資の前提を変えられた側です。

この違いは実務にも表れます。144条のルートは、会社が承認しないと決めるまでは動きませんし、そもそも譲渡承認請求とあわせて買取りを請求しておかなければ会社に買取義務は生じません。一方、買取請求権のルートは、会社が組織再編を進めようとするかぎり、株主の側から期間内に手を挙げれば発生します。使える場面が限られる代わりに、株主の側から確実に起動できる制度だといえます。

実務上、先に確認しておきたいこと

反対の意思が固まった段階で確認しておきたいのは、次の3点です。

第一に、株主総会の招集通知や会社からの通知・公告の日付です。ここから請求期間が逆算されます。書面はすべて保管し、届いた日を記録しておきます。

第二に、事前の反対通知を「いつ・どういう形で」出すかです。口頭では後日の証明が困難になりますので、書面で、送付の記録が残る方法によることが望ましいといえます。

第三に、会社が開示している組織再編の内容です。組織再編にあたっては、契約の内容や対価の相当性に関する事項を記載した書面等を本店に備え置くことが求められており、株主はその閲覧等を請求できます。提示された対価が妥当かどうかを判断する材料は、まずここにあります。

反対の通知や議決権行使のタイミングを誤ると、権利そのものを失いかねない制度です。買取請求の後は価格の協議、場合によっては裁判所での手続きへと進み、専門的な判断が必要な場面も増えます。組織再編の通知を受け取り、条件に納得がいかないと感じた段階で、早めに弁護士へ相談されることをおすすめします。

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